製造過程のデータを手作業で紙に記録し、それを何年も保存する必要がある産業では、新型コロナウイルス感染症の影響による製造の混乱で、その課題が浮き彫りになりました。製薬業界では、デジタル化すれば製造工程を改善できるとわかっていても、厳しい業界規制があるために導入しにくいというジレンマを抱えています。
なぜ紙なのか?
FDA (Food and Drug Administration: アメリカ食品医薬品局)では「文書化された証拠」を求めており、GMP (Good Manufacturing Practice: 適正製造規範)でも、医薬品製造工程を通じて必要となる文書および記録の管理に関わる手順を定めています。記録および保管するデータは、原料の系譜、使用された機器、工程、日付、関係者などを網羅しており、日々の確認作業、定期的な点検、および監査のために取り出す必要があります。監査で指摘があると、コンプライアンスに関わるコストが増加してしまいます。
一方で、生産サイクル全体で発生した紙の文書に間違いがあった場合、修正に数週間かかる可能性があります。この間、完成品の出荷が遅れ、市場投入までの時間とコストが増大します。これがデジタル化を魅力的な代替手段にしている理由です。デジタル化により、人的エラーが大幅に減少し、「逸脱によるレビュー」などの手法を通じてドキュメントのレビューサイクルが短縮されます。また、ペーパーレス化による紙の削減は、二酸化炭素排出量を削減することでSDGs (Sustainable Development Goals: 持続可能な開発目標)にも貢献できます。
タブレットを使った記録
紙の代わりにタブレットに記録する場合、明らかにおかしな値を入力した場合にメッセージを発したり、必要な記録がなされていない場合に先に進めないように設定することで、誤記や入力漏れなど人的ミスを大幅に減らすことができます。また、電子データは、点検や監査の際に簡単に取り出すことができます。ただし、タブレットで入力しただけでは、エンタープライズリソースプランニング(ERP)、ラボ実行システム(LES)、製造実行システム(MES)、および製造システム全体に統合されていないため、記録を製造およびビジネス全体に活かしきれません。
デジタルデータの活用
医薬品の開発過程では、手作業による紙媒体への記録が多く行なわれており、紙の文書の管理に労力が費やされています。製造工場でデジタル化が進んでいても、R&D部門が紙を使った記録をやめることが難しかったり、タブレットの使用が禁止されている場合もあるため、開発と製造をデジタルでつなぐことが困難です。他方、新型コロナワクチンのような需要が見込まれる医薬品を開発する場合、デジタルで製法を開発し、それをすぐに製造に利用できれば、大きな競争力となります。mRNAワクチンの開発は50,000段階もの工程になる可能性があり、それらが紙で記録されていると、製造に移行するまでの複雑さが増します。
製造実行システム(MES)と電子バッチ記録(EBR)
MESの導入は、製造のデジタル化に向けた重要なステップです。紙で記録していた工程すべてを一気にEBRシステムに移行することはほとんどありません。一般的にEBRを最初に導入する工程は、秤量と分注です。これに続いて、工程管理、逸脱によるレビュー、そして製造システム全体との統合を行ないます。ロックウェル・オートメーションのライフサイエンス向けMESであるPharmaSuite (ファーマスイート)は、ERPやサードパーティのシステムとの統合も可能です。PharmaSuiteは、コンプライアンスガイドラインを順守し、サプライチェーンの効率を高め、SDGs達成に役立つアプリケーションを提供します。
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